ライフスタイルの変化に合わせた波佐見焼を作り続ける山下陶苑の想い



今回は、波佐見焼窯元として社会のライフスタイルの変化に対応し続ける山下陶苑さんのモノづくりについて、代表の山下さんにお話を伺いました。


ー山下陶苑さんは主に何を作られているかと、創業の経緯を教えてください。


波佐見焼の窯元として、テーブルウェアと呼ばれる陶磁器を製作しています。


波佐見焼は400年の歴史があると言われています。江戸時代には長崎から大阪の高槻まで運ばれ、淀川で船客に飲食物を販売した小舟「くらわんか舟」で使用されていたことでも有名です。

近年認知される様になったのは、元々専門店や百貨店などの卸業者さんが取り扱ってくださる様になったことがきっかけです。高度経済成長期には更に広く認知される様になり、高級料亭などで使われる有田焼とはまた違った、伝統工芸品の中でも比較的馴染み易い庶民的な器として現在は流通しています。



ー山下さん自身の活動歴についても、教えてください。    


この会社は私の父が今から40年ほど前に、当時修行していた窯元から独立して立ち上げたものになります。私が学生の頃にはありましたので、こちらに入るために高校のデザイン科に進み、専門学校に2年間通ってから入社しました。

働く前は陶芸とは違う仕事をしたいと思う頃もありましたが、父からものづくりの面白さを教えてもらい、作り手として働くことに魅力を感じるようになりました。


窯元に入った当初はお茶碗の絵のデザインをすることが制作活動の主軸でしたが、そこから少しずつ世の中の変化に合わせて作品を進化させていくために、経営にも携わるようになりました。父の後を継いだのは今から10年程前になりますね。



ー作家さんとしてのご経験の中で印象的なエピソードなどがございましたら教えてください。


私が窯元の代表として父から引き継いだ時に、時代の変化に合わせて窯元も進化していかなければ、生き残りが厳しいと強く感じるようになりました。父は少し頑固なところがありましたので、現役の時代にはなかなか変えることは出来なかったんです(笑)


「自分が今後何をやって次世代に繋げるか」という課題に向き合うようになり、卸の流通や商品の形成について考える様になりました。コンサルティングの方と、会社としての強みやどんな作品を世に出していくかということを半年間ほど長い時間をかけてディスカッションを重ね、どのように生きていくのかと強く考えていました。この試行錯誤のお陰で、現在では徐々に認知度が上がって、今年はさみ陶器まつりに出展した際には、お客様からの見る目が違ってきたような気がします。



ー今、一番思い入れの強いブランドなどはありますか?


オリジナルブランドの「nucca」は特に注目されています。

ブランドの中でも「練色/NEIRO」というシリーズは、均一に美しい色のマットな作品であるため特に人気があります。新しく開発した「色」を練り込んだ陶土により、どこの面でも均一に同じ色を出すことが実現しました。このシリーズはアクセサリーなども展開しています。

今はマットな質感がとても人気が高いので、はさみ陶器まつりでもとても売れたんですよ!



ーブランドや商品を考えられるときに、意識されていることはありますか?


作ってわくわくするものや、一目見て表情が明るくなるような商品を見て学んだり、実際に様々な方の声も聞きながら参考にしてますね。若い方は茶碗の話をするより、アクセサリーの話をする方が興味を持たれますね。



ー今はそのような作ったものをどのようにプロモーションされているのでしょうか?


本当にそこが課題ですね。営業マンもいなくて作るばっかりの仕事だったので、これからどのように拡大して、認知してもらうかは一番のテーマになっています。これまでに2度ほど展示会に出展をして、繋がりや認知度も徐々に広がっていますが、実績として取り扱いに繋がることはまだまだ少ないですね。


ーそれにあわせて売り方も変わってきているのでしょうか?


現在は個人消費者さんや小売店さんとの直接取引を増やしています。

近年インスタグラムなどを通じて、30歳代女性などの若年層にもファンが増えています。以前購入した商品を気に入ってくださり、また違う色を探しに来られるリピーターさんもいらっしゃいます。今後はより多くの方に認知していただき、山下陶苑のファンになってもらうために、どの様に作品の魅力を伝えていくかという取組みを強化していきたいと考えています。



ー海外への販路拡大などは検討されていますでしょうか。


現在は、海外と取引がある日本企業さんとの取引が少しあります。波佐見という土地は観光地という印象が薄いため、海外の個人観光客が観光に来られることはまだ多くありません。そのため今後更に海外への販売は進めていきたいと考えています。



ー山下さんがものづくりで大切にしていることを教えていただきたいです。


自分が楽しいかどうかを一番大切にしています。作品を作っていると、特に窯で作品を焼いた後、扉を開ける時にはこの上なく楽しく感じますね。

また、商品デザインやブランドを考える時にも意識していることはやはり楽しさです。

作品を見た時のお客さんの反応や表情を見ると、更に自分の想像を掻き立てられてこれもまた楽しいので、様々な人とのコミュニケーションを取りながらものづくりを行っています。



ー伝統工芸品である波佐見焼の今後について山下さんのお考えがあればお教えください。


後継者問題についてはどの窯元さんでも問題となっています。次の世代に繋げていく取組が充分にできないと、衰退してしまいます。伝統工芸の仕事はどうしても古い印象や、業種としては特別なイメージがあると思います。

近年、カフェを開いたり、外部とのタイアップを行って作品をPRされるなど、新しいことに取り組んでいる窯元さんは増えてきています。

山下陶苑も今後、後継者を育てるために窯元見学などを行い、ものづくりの楽しさや魅力を伝えていき、窯業を学びたいと思える窯元になれたら良いなと思っています。



ー最後に、今後山下様として目指したいものはございますか?


若者が山下陶苑で窯業を学びたいと思うような会社を目指したいです。そこから、個人が作りたいものを作って、それを発信することで波佐見焼のPRに貢献できれば良いと思っております。





山下陶苑
「私たちにしかできないものづくりと、ものづくりの楽しさを追求することにより、今までにない価値を創造する」を経営理念に掲げて、長崎県にて波佐見焼を製作している。
波佐見焼では珍しい、一貫生産ができる窯元で、自由自在なものづくりの環境を実現。魅力溢れる窯業の再興を目指している。